Share this post !!

大好きな言葉

私が敬愛する作家であるヤマグチノボル氏は『ゼロの使い魔』1巻のあとがきにてこのように書いている。

そして,ああ,僕はなんというか,異世界に対する憧れというのが強い。

とにかく,ここじゃないどこかに行きたいという欲求が常にあります。始めて訪れる街が好きです。異国の写真を眺めるのが好きです。月の裏側ならなお素晴らしい。そこが,『ここ』ではない,どこか別の世界なら,言うことはありません。ロマンが詰まってたら,もっと言うことはありません。そんな世界を歩いてみたい。主人公がこっちの世界の人間であるのはそんな理由からです。

異世界の恋と冒険,そして貴族の名誉,これこそがロマンだとワインに酔った頭で僕は思うのであります。ロマンはいつだって僕の胸をはやらせ,加速させてくれるのです。

MF文庫J・ヤマグチノボル・ゼロの使い魔《あとがき》

これほど私の心を震えさせた言葉はかつてない。高一の時に初めてライトノベルというものに触れ,ハルヒ・シャナと読んできたが,私の指はなぜこうも飽かずにページを繰り続けるのだろうか。

そんな無意識的・潜在的な疑問に煌々と光を当て,なお私の脈動を『加速』させたこのヤマグチノボル氏の言葉に,私は咽んだ。『ここ』ではないどこか! ああ! なんと艶美な,そして哀しい文句だろう。

結局,今のところ人間であるからには『ここ』の現実性に縛られずにいられない。だからこそ『ここ』ではないどこかに価値が生まれる。手を伸ばしても届かない井戸の上。くそったれな物理法則とともに今日も太陽は東から昇ってしまうし,見上げる月は一つっきりだ。

『ここ』以外の世界があるなんて信じられないくらいにこの世界は法則に則って動かされ、 、 、 、,ヤマグチノボル氏の言う欲求は身の内に燻り,行き先を求めて心を苛むのだ。

ライトノベルに私が傾倒する理由は,あくまでそこがファンタジーだからだ。普通の(ここではライトノベル以外のという意味で)文庫本にない,作者の低級な(作者の意図に最も近いという意味で)欲求に忠実な創作物としてライトノベルは存在している。

こと『ゼロの使い魔』シリーズのあとがきは,その全巻に渡ってヤマグチノボル氏の欲求に塗れている。最初に引用した1巻あとがきを端緒として,氏の見たい・聞きたい・行きたい世界が滔々と語られていているのだ。そしてその心意気は作中においても,主に二人の登場人物が代弁している。

その世界では,本当に誰もがきみの言う“くるま”を繰り道をゆくのか?

遠く離れても意思が通じる小箱の存在はまことか?

本当に月へ人が降り立ったことがあるのか?

魔法を使わずに,それらのことをやってのけるとは,なんて素晴らしいことだろう。

わたしは,そんな世界が見たい。

MF文庫J・ヤマグチノボル・ゼロの使い魔6 贖罪の炎赤石ルビー

ここじゃないどこか。今じゃないいつか。胸躍る,素敵な世界へ……。

それは気のせいかもしれない。ただの勘違いかもしれない。でもそう思える。感じられる。予感がする。それは何より貴重だった。

MF文庫J・ヤマグチノボル・ゼロの使い魔17 黎明の修道女スール

(前略)

どこか別の世界に連れていってくれるんじゃないか? って。そんな気持ちになるんだよ。わくわくするような,ここじゃないどこか。たぶん,いい悪いを抜きにして,お前がいろんなところに俺を連れまわしたからだと思うんだけど。そりゃ,つらいこともあったし,悲しいこともあった。死にそうにもなった。でも,楽しかったのも事実なんだ。

MF文庫J・ヤマグチノボル・ゼロの使い魔18 滅亡の精霊石

しかし,ヤマグチノボルという創作上の神が作った世界は,残念なことに紙を媒体にしてしか表出しない。それ以上を望むのはいっそのこと無粋と言いきった方がいいのかもしれないが,『欲求』はそんな理屈に囚われない。制限の枠をとっぱらって,常に常に膨張したいと震え続ける。

いつかも書きましたが,ぼくには常に“ここではないどこか”に対する強い憧れがあります。そしてまた,決して自分がそこに到達し得ないことも知っています。それは一種のあきらめです。でも,物語の中だけは違う。いくらでも,想像力の膨らむ限り,どこまでも未知の地平を目指すことができる。ぼくにとって物語をつむぐというは,一種の旅なのです。

MF文庫J・ヤマグチノボル・ゼロの使い魔17 黎明の修道女スール《あとがき》

ああ,私も“こんな”『世界が見たい』。『そんな』ではない『こんな』。切実にそう思う。

こんなことを漠然と考えながら,小説を書いている。

fantasy

ところで,”fantasy”の発音をご存じだろうか。

fan・ta・sy[fǽntəsi] [U][C]途方もない空想, 現実離れした想像, 夢想, 幻想

にもあるとおり,「ふぁんたしー」である。

カテゴリー :

コメントを残す